【ステップ1】
計画地は東急東横線の人気駅から徒歩圏内の閑静な住宅街にあります。賃貸での不満の多くは音漏れであるため、可能であれば鉄筋コンクリートのRC造にしたいところです。しかし、敷地40坪では面積が少々小さいため、OZONE家designのコンサルタントが事業収支を概算すると予算的にもRC造は難しく、一般的な重量鉄骨造も厳しそうでした。
そこで、規格型鉄骨造の大手ハウスメーカーをご紹介し、集合住宅の間取りと事業収支計画策定を依頼たところ、ハウスメーカーの提案は軽量鉄骨2階建てのアパート形式。
収支は全く問題がありませんでしたが、S様の印象は「普通過ぎる」というもの。
S様は『周辺の賃貸にはない、魅力的な生活空間』を提案してほしかったそうです。
【ステップ2】
段階を踏んだことで、『周辺の賃貸にはない、魅力的な生活空間を提案してほしい!』という、S様ご自身の希望が見えてきました。
そこでデザイナーズ賃貸の企画から不動産管理を手掛ける不動産コンサルティング会社である、株式会社タカギプランニングオフィスをご紹介。株式会社タカギプランニングオフィスには、市場調査と事業収支計画策定、建築家選定を依頼しました。 建築家は集合住宅を数多く手掛けている長田 直之氏にお声かけをすることとなり、ハウスメーカーにはない建築家らしい検討材料の提案が期待されました。
そして迎えた提案当日は、なんと10以上のバリエーションの提案が示され、建築家ならではの多方向から検討を重ねたプレゼンテーションとなりました。
S様は長田氏が考える賃貸集合住宅のコンセプトや設計のすばらしさに魅了され、設計は長田氏に決定!
木造長屋形式の ≪小さな塔の集合体≫ の案で進めることを決めました。
木造の「小さな塔の集合体」
賃貸住宅の計画で気にすべきことの一つが音漏れの問題です。そのため、S様の当初の要望はRC造でしたが、今回の長田氏の提案では事業収支を考慮し、建設費を抑えるためにあえて木造としながらも、木造の音の問題も解決可能というものでした。
音漏れ問題の解決方法として、7つの住戸すべてを2階建て、別の住戸が上下に重ならない「塔」状にし、床面積は小さいけれども、高さ方向の空間は大きい住宅の集合体にしました。
搭状の住戸による構成を考えると、一番小さい住戸では1階の床面積が8㎡しかなく、垂直導線の距離が大きな課題です。
そこで1階の天井高を抑えて水回りとキッチンを集約し、床もタイルにすることで土間のような空間をつくりました。そして、上に2階の天井の高い大きな空間を載せました。この構成は、2階の空間と地面との距離を物理的に近くすることができるため、階段スペースを小さくすることができます。
また狭い空間を有効利用するため、階段を家具として扱い、階段下を収納としても使用できるデザインにしました。
≪閉じた箱≫と≪開いた箱≫
7つの住戸は、性格の異なる≪閉じた箱≫と≪開いた箱≫のふたつの箱からできています。2種類の箱が交互に並び、所々に小さい庭も挟み込むことで、インフラとしての多様性を確保しています。木造で構造的に必要な壁量をうまく≪閉じた箱≫として集約することにより、基本的にブレース(筋交い)が出てこない≪開いた箱≫を作り出している、これも木造ならではの課題解決方法です。
同時に、屋根も異なるデザインとなっています。高密度にならざるを得ない全体構成の中で、4つの≪閉じた箱≫(ボリューム)に各々独立してかかる屋根と、その箱と箱をつなぐようにしてかかる隙間(ヴォイド)の屋根が生まれています。