せんが りょうさく
一級建築士 建築士会インスペクター
1979~1989 ㈱菊竹清訓建築設計事務所
1990~ ㈱千賀建築設計事務所代表
主に住宅・福祉施設・宗教施設等の設計・監理、住宅・マンションのインスペクション・検査・診断等
〈住まいづくりコンサルタントから〉
千賀さんは正義感が強く、いつも正しいと思う事はキチンと現場で指摘してくれる、実に頼もしい存在です!
建築後70年が経過して老朽化が進み、耐震性・防火性に問題があるとされて、使用を控えざるを得なかった宗教施設の、外装の改修、内装の刷新、水廻りの更新、バリアフリー化、を含めた大規模リノベーション工事の設計・監理を依頼されました。
当初の耐震性(上部構造評点)は0.13と低く、これを1.0以上(一応倒壊しないレベル)にするにはかなりの補強が必要と分かり、構造補強だけでは足りず、建物の大幅な軽量化も必要でした。また、消防法に照らすと、2階の面積が過大でした。さらに、外観上、周辺環境に馴染まない圧迫感を感じました。そこで、屋根の軽量化(瓦屋根を鋼板屋根に葺き替える)に加えて、2階の一部の減築も行う提案をしました。運営側には面積が減ることへのためらいもありましたが、何よりも安全を優先すべきという判断により、提案は採用されました。
建築後70年の宗教施設。木造2階建て、延べ面積約1,000㎡、屋根は瓦葺き、外壁はモルタル吹付仕上げ、内壁は土壁で、かなり老朽化が進んでいました。
2階の約1/3を減築し、屋根は鋼板葺きとして軽量化しました。減築によって屋根の上に空が広がり、周辺環境とのバランスも良くなりました。
2021年の気象庁の長期予報では多雨が予想されていましたが、工期はイースターからクリスマスまでの間(5月~11月)とされ、遅延は許されない状況でした。そこで、施工会社(三社)への見積依頼書で、工期厳守のための雨対策の提案を求めたところ、二社からは「屋根養生シートで行う」との回答だったのに対して、一社が提案してきたのが「仮設屋根(素屋根)」でした。
本格的な素屋根は姫路城の大改修でも用いられましたが、この提案は、比較的簡易な素屋根でした。他の二社の見積書、工程表、仮設計画などと比較検討したところ、仮設工事費は他社の倍以上でしたが、合計の見積額は予算内で、また、工程管理上の合理性が高いことが他の建設委員からも評価され、施工依頼に至りました。
工事中は、実際に雨がかなり多く、改修工事に付き物の不測の事態もいくつも発生しましたが、約3ヵ月間の素屋根設置により、天候の影響を最小限にして着実に工事を進めることができ、最終的には費用・工期ともに想定内に収めることができました。
外周足場の外側に補強控えを設け、屋根全面に単管と樹脂波板で素屋根を架ける。仮設は大掛かりで長期に亘るが、着実に工事が進められ、現場確認・検査もしやすい。
500㎡を越える大量の瓦を撤去し、既存野地板を補修した上に、合板を千鳥張りする。
アスファルト防水紙を全面に敷設する。減築部の小屋組みも素屋根の下で行う。
鋼板屋根(ガルバリウム鋼板立馳葺き)を施工。雨だけでなく、夏場の直射日光も防げる。
世界的に地球温暖化を抑制することは喫緊の課題となっており、建築においてもサステナビリティが求められています。その一つの手法として、"減築"は有効であると考えています。耐震・防災・省エネ・人口減少などに、直接的に対応できる手法だからです。
日本では、もともと雨が多い上に、地球温暖化による気候変動によって大雨となる傾向にあり、減築などで大規模な屋根改修を伴う工事には大きな影響を及ぼします。
この影響を小さくする仮設工法として"素屋根"が有効であることを、今回経験しました。
しかし、残念なことに、このノウハウを持つ施工者が少ないことも知りました。今後、素屋根のノウハウは、施工者にとって戦力になると思われ、扱える施工者が増えることを期待するものです。
住まいづくりコンサルタントより建築工事の天候によるスケジュール管理の難しさを解決する方法として、これから注目される工法だと思います!
OZONE現場確認員は、ご自身でも日々新たな挑戦をし、その知見で建て主に寄り添った現場確認をしてくれる心強い味方です。
(2022.3月記)
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